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医師の退職金の税金:勤続3〜30年の控除額と転職の影響
退職所得控除は勤続20年までは1年40万円、20年を超えると1年70万円。勤続年数別の控除額と、転職を重ねた場合・勤続5年以下の場合・申告書を出さない場合の税金を国税庁の資料で整理しました。
医師は、初期研修、専攻医、医局の人事での異動、専門医を取った後の転職と、数年ごとに勤務先が変わることが珍しくありません。退職金の税金は勤続年数で大きく変わる仕組みなので、勤務先が変わるたびに少しずつ受け取る場合と、1か所に長く勤めて受け取る場合とでは、手元に残る額に差が出ることがあります。この記事では、国税庁のタックスアンサーをもとに、退職所得控除の計算と、転職を重ねたときの影響を整理します。
退職金の税金は「控除を引いて半分」が基本
国税庁 No.1420 によると、退職所得の金額は原則として次の式で計算します。
(退職金の額 − 退職所得控除額)× 1/2 = 退職所得の金額
退職所得は給与など他の所得と分けて税額を計算します(分離課税)。所得税は、この金額に速算表の税率(5〜45%)をかけ、復興特別所得税を含めて102.1%にした額です(国税庁 別紙 速算表)。令和8年度税制改正で令和9年以後は防衛特別所得税が加わりますが、国税庁は合計税率は変わらず、源泉徴収税額の計算方法も変わらないと説明しています。
住民税も分離課税で、東京都主税局によると、同じく控除を引いて2分の1にした金額に、所得割の税率10%(都民税4%・区市町村民税6%)をかけます。通常は退職金を受け取るときに、所得税とあわせて住民税も差し引かれます。
勤続年数別の退職所得控除額
退職所得控除額は、勤続20年までは1年あたり40万円、20年を超えた部分は1年あたり70万円で計算します(No.1420)。計算した額が80万円に満たない場合は80万円です。勤続年数に1年未満の端数があるときは1年に切り上げます(勤続10年2か月なら11年)。
| 勤続年数 | 退職所得控除額 |
|---|---|
| 1〜2年 | 80万円 |
| 3年 | 120万円 |
| 5年 | 200万円 |
| 10年 | 400万円 |
| 15年 | 600万円 |
| 20年 | 800万円 |
| 25年 | 1,150万円 |
| 30年 | 1,500万円 |
退職金がこの控除額以下なら、退職所得はゼロで、所得税も住民税もかかりません。たとえば勤続10年ちょうどで退職金600万円なら、退職所得は(600万円−400万円)×1/2=100万円、所得税は100万円×5%×102.1%=51,050円、住民税は10万円が目安です。
転職を重ねると控除はどう変わるか
勤続20年までは1年40万円で一定なので、勤務先を何度変えても、各勤務先でそれぞれ退職金を受け取る限り、控除の合計は大きくは変わりません。差が出るのは、1か所での勤続が20年を超える部分です。30年間の勤務を例に、控除の合計を並べると次のとおりです。
| 働き方(30年) | 控除の合計 |
|---|---|
| 1か所で30年 | 1,500万円 |
| 15年×2か所 | 1,200万円 |
| 10年×3か所 | 1,200万円 |
| 5年×6か所 | 1,200万円 |
税金の差を見るために、退職金の総額が同じ2,000万円だったと仮定して計算してみます。実際の退職金の額は勤務先の規程で決まるので、この仮定はあくまで比較のためのものです。
- 1か所で30年・2,000万円:退職所得は(2,000万円−1,500万円)×1/2=250万円。所得税は(250万円×10%−97,500円)×102.1%=155,702円、住民税は25万円で、合計約40.6万円。
- 15年×2か所・各1,000万円:1回あたりの退職所得は(1,000万円−600万円)×1/2=200万円。所得税は1回104,652円、住民税は1回20万円で、2回の合計約60.9万円。
この仮定では差は約20万円です。勤続が短い勤務先では、そもそも退職金が出ないこともあります。その場合はその期間の控除も使われないので、控除の合計は表より小さくなります。
医局の人事で病院を移るとき、前の病院の勤務期間が通算されるかどうかは、税制ではなく退職金規程の話です。国税庁 No.2732 は、前の勤務先での期間でも、退職給与規程などの明らかな定めにより退職金の計算の基礎に含まれる期間は勤続期間に含めるとしています。つまり規程で通算されれば税金の勤続年数も長くなり、通算されなければそれぞれ別の退職金として扱われます。通算されるかは、勤務先の規程で確認するのが確実です。
勤続5年以下と、公務員・役員の扱い
勤続が短い退職金には、2分の1の計算が一部または全部なくなるルールがあります。
短期退職手当等(役員等以外で勤続5年以下)では、退職金から控除を引いた額のうち300万円を超える部分は2分の1になりません(No.1420、No.2732)。たとえば勤続5年・退職金700万円なら、退職所得は150万円+(700万円−200万円−300万円)=350万円で、所得税は278,222円です。このルールがなければ退職所得は250万円、所得税は155,702円でした。退職金から控除を引いた額が300万円以下なら、影響はありません。
特定役員退職手当等(役員等としての勤続5年以下)は、2分の1の計算そのものがありません(No.2737)。国税庁の定義では、この「役員等」には法人の取締役や理事のほか、国家公務員と地方公務員も含まれます。公務員として勤めた期間が5年以下で受け取る退職手当は、この区分に当たる可能性があります。勤務先での身分が公務員かどうかは経営形態によるので、勤務先に確認してください。副業を法人化して自分の法人から役員退職金を受け取る場合も、役員の期間が5年以下ならこの区分です(法人化の損益は法人化シミュレーターで試算できます)。
申告書・確定申告・iDeCoとの関係
退職金を受け取るときに 「退職所得の受給に関する申告書」 を出していれば、勤務先が税額を計算して源泉徴収するので、原則として確定申告は不要です。出していないと、退職金の20.42%が源泉徴収され、確定申告で精算します(No.1420)。勤続5年・退職金300万円の場合、申告書があれば所得税は(300万円−200万円)×1/2×5%×102.1%=25,525円ですが、申告書がないと612,600円が差し引かれ、差額は確定申告まで戻りません。
バイトがあって確定申告をする勤務医は、もう一つ注意が要ります。No.1420 は、医療費控除や寄附金控除などのために確定申告書を出す場合、退職所得の金額も記載する必要があるとしています。申告の流れは勤務医の確定申告:バイト先が2か所以上ある年の手順にまとめました。
同じ年に2か所から退職金を受け取るときは、2か所目に出す申告書に1か所目の退職金の額などを書き、源泉徴収票を添付します。2か所目では両方の退職金を合計し、勤続期間は重複しない部分を足して計算し直します(No.2735)。
前年以前に受け取った退職金と勤続期間が重なる場合は、重なった年数分の控除を差し引く調整があります。対象は、前年以前4年内に受け取った退職金です。確定拠出年金(iDeCo・企業型DC)の老齢一時金も退職所得とみなされ、令和8年1月1日以後に一時金を受け取った場合、その後の退職金との調整期間は前年以前9年内です。退職金を先に受け取り、後から一時金を受け取る場合は前年以前19年内です(No.2732、No.2735)。受け取る順番と間隔で控除が変わるので、iDeCoの受け取り方は受給前に確認しておくと安心です。
この記事の計算は、障害者になったことによる退職の加算や、同じ年に区分の違う退職金が重なる場合などを含めていません。実際の税額は、勤務先の計算や税務署で確認してください。在職中の給与の手取りは年収別の手取り早見表や手取り計算ツール、医師の年収の分布は医師の年収の統計で確認できます。
出典
- 国税庁 タックスアンサー No.1420 退職金を受け取ったとき(退職所得)
- 国税庁 タックスアンサー No.2732 退職手当等に対する源泉徴収
- 国税庁 別紙 退職所得の源泉徴収税額の速算表
- 国税庁 タックスアンサー No.2735 同じ年に2か所以上から退職手当等が支払われるとき
- 国税庁 タックスアンサー No.2737 役員等の勤続年数が5年以下の者に対する退職手当等(特定役員退職手当等)
- 東京都主税局 個人住民税(11 退職金にかかる住民税)
確認日 2026-11-03。数値は出典の公表時点のものです。